お客様の声
富山県 朝日町 有限会社サンライス青木 青木様のご紹介
- 団体名・会社名
- 有限会社サンライス青木
- お名前
- 会長 青木靖浩様
- 水田住所
- 富山県 朝日町
スマート農業の先端を進むサンライス青木
サンライス青木の創業者、青木靖浩さん(61歳)。農業高校の卒業後は建設業界で15年働き、32歳にして家業を継ぐ形で農業を始めました。
サンライス青木 会長 青木靖浩さん
当初は家族経営でしたが、青木さんは設備投資のため借り入れをして作業所の増築や多数の農機具を導入することで、耕作面積を次第に拡大させていきました。現在は、富山県農業機械士会の会長も務めています。
青木さんがスマート農業を始めたのは、1995年(平成7年)に農薬散布用のラジコンヘリコプターの操縦資格を取ったときから。当時は “スマート農業” という言葉もない時代でした。
「元々、機械や新しいものが好きなんですよ。人と同じことをするのは面白くないんです。人の先手を打ち、常に最先端を進みたいという想いがありました」
1999年(平成11年)からは従業員を雇用し、2005年(平成17年)に有限会社サンライス青木を設立。社名は、“太陽の光で米作り” という意味を込めました。
サンライス青木の作業所
2018年、社長を息子さんに譲り、代表権を持つ会長に就任。2022年現在、会社は家族5人と従業員2人、ほかに夏場に草刈りをお願いするパートさんを雇う規模になりました。てんたかく、こがねもち、ミルキークイーン、コシヒカリ(育苗・直播)の米5品種に加え、ハウスネギや枝豆などの野菜と大豆、ハト麦も栽培しています。
美味しい米づくりの秘訣
サンライス青木では、朝日町の水田92haと入善町の水田20haを合わせて112ha、さらに大豆畑も含めると115haの経営面積があります。これほど規模が大きくなったのは、周辺で農業を辞めていった農家さんから「田んぼごと買ってほしい」と頼まれたためです。
paditch(パディッチ)を設置しているサンライス青木の水田
経営面積を増やすと7人の労働力では厳しくなるため、“いかに楽をするか・面積をこなせるか” という視点で考え、機械でできるものは機械でやるのがベストだという結論に達しました。
「稲作面積が増えると大変になるのは、水管理と畦草刈りです。そのため、paditch(パディッチ)やラジコンの草刈機などを使っています。機械を導入すれば楽ができ、労力とコストの削減効果で、さらに経営面積を増やせます」
青木さんがスマート農業に積極的なのは、大規模農場を無理なく経営するために必要だからです。農業は天候相手の仕事。広い圃場を管理するには機械を何台も保有し、適期に一気に行うことが大切です。
「適期を逃し、長雨が来ると品質低下に繋がります。1つの工程が遅れると、遅れが連鎖して大変なことになります。そのため、先を見越して早めの行動を心がけるとともに、効率化できる機械に過剰なくらい投資しています」
農業技術としては、20年前から緑肥を導入。マメ科の1年草である “ヘアリーベッチ(緑肥)” を秋に植え、春に水田にすき込んでいます。
従来の化学肥料では有機物質が不足しがちな上、畜産業の減少に伴って堆肥の入手が困難、かつ、入手後に完熟させる手間がかかります。一方、ヘアリーベッチをすき込むと水田に窒素分を補い、化学肥料の代わりとなる上に土壌改良もできるのです。
「緑肥を使うことで、米が美味しくなります。それに加えて、夏場でも冷たい黒部川が近くを流れていることで夜に涼しい風が吹き、1日のうちの温度差を大きくしてくれるのが稲作にいいんです。温度差がある場所の農作物の出来は全然違います」
paditch導入のきっかけ
富山県では、農業分野における担い手不足などの課題を克服するため、2005年に “とやま型スマート農業推進コンソーシアム” を設立し、先端技術を活用したスマート農業の実証を進めています。
paditchを設置している水路
株式会社 笑農和が2017年7月から本格運用を開始した “paditch” は、水門・バルブの開閉をスマホやパソコンで遠隔操作できる水管理システムです。水位・水温のAI制御やタイマー機能など、水管理に必要な機能を備えており、人が足を運んで水門を開閉しに行く労力を大きく削減できるため重宝されています。
サンライス青木では、 県からpaditchの導入要請を受け、2018年4月に6台を導入しました。実際に使ってpaditchの利便性の良さを感じた青木さんは、その後、農地面積の拡大に合わせて追加導入し、現在はゲート 型のpaditchを24台使用しています。
「いち早く取り組んだ者の勝ちだと思っています。何でも初めにやる人は苦労しないといけないものの、やってしまえば自分の利益になります。実費ですべてを賄うのは金額が大きくて無理ですが、県や国の事業を活用して補助金を申請すれば導入しやすくなるのがありがたいです。国や県はスマート農業を推進しているため、今がチャンスです」
paditchの活用法(導入前後の違い)
サンライス青木が保有する圃場の中には、100メートルほど畔道を歩いて行かなければならない水門があります。道路に面しておらず、手前にある宅地を迂回しなければならないのです。もちろん車も通れないので、往復200メートルを1日に何度も歩く必要があり、かなりの労力でした。
スマホでpaditchを操作する青木さん
「その水田に導入したpaditchは、快調です。現場に足を運ぶ回数が大幅に減り、深夜や早朝に水門の開閉に行かなくて済むようになったので、とても助かっています。また、朝日町には黒部川も小川の水系もあるため水が豊富ですが、それでも下流では水が枯れることがありました。それが、paditch導入後は水管理ができているため枯れずに済んだのが大きなメリットです」
青木さんがpaditchのデータで最もチェックしている項目は、“水温の温度差” です。 「例えば、paditchのセンサーの数字を見れば『今は水温が高いから冷たい水を入れてあげないといけない』ということが分かります。富山県は穂が出てから20日間、水を入れることを義務付けられているのですが、気温が高くなると水がお湯みたいになってきます。そういう時は排水口を開け、水田の水を循環させつつ、水温を下げるんです。水門の入口と出口を簡単に自動制御できます」
水温データのほかに青木さんがよく活用しているのは、paditchの通知機能です。周囲には家庭菜園が多く、食べられない野菜は川に捨てられるため、水門の開閉に不具合を起こすことがあります。
「現地に行かなくても、何かあれば異常を検知して携帯電話に教えてくれるのがありがたいですね。例えば『ゴミが詰まっていて、水門がきちんと閉まりません』と通知が来て見に行くと、ナスやダイコン、トマトが引っかかっていることがあります。paditchのおかげで迅速な対処ができます」
先端技術は、使ってみて分かることも多いのが現状です。青木さんはユーザーとしての声を笑農和に伝えて改善を求めるだけでなく、自分たちでも使い勝手を良くする工夫や持続させる仕組みを考え、実践しています。
「どこのメーカーでも一緒ですが、雪国は大変です。冬期間は除雪車の圧雪による機械の破損や凍結などの恐れがあるため、肥料の袋などを使って養生しています。養生することによって長持ちするので、これも1つのアイデアです。 青木さんと笑農和が相談しながら、川の流れの強い場所や水の少ない場所など条件の異なる様々な場所で導入を試みています」
スマート農業が後継者不足をサポート
「5年以内の近い将来、スマート農業が当たり前になる時代が来る」と、青木さんは言います。
「YouTubeを見ると、IT企業から脱サラして農業に取り組むなど、自分でカメラや自動装置を付けて携帯電話で制御している人が大勢います。IT技術を理解していれば、ちょっとしたアイデアでお金をかけずにできるんです。私自身も機械が好きなので、作業所内の設備を自分で設置することで工事費用を抑えられています」
青木さんが自身で設置した選別機などの装置
サンライス青木では、一連の農作業で必要な機械を導入し、省力化・効率化に取り組んでいます。圃場で稲を刈り取る様子を作業所内のモニターに送信できるコンバイン、収量・食味が分かるコンバイン、雨風にも負けず除草剤を散布できる大型のラジコンボート、重い米袋を電動アームで持ち上げる “カンタンハンド” など、多数の機械があります。
ドローンでは難しい雨風時にも除草剤を散布できるラジコンボート
30kgの米袋を楽に移動できるカンタンハンド(ハンドクレーン)
青木さんがここまでスマート農業に注力するのは、今、厳しい局面に立たされている農業を持続可能にするためでもあります。
米の価格の下落、肥料や資材・原油価格の高騰、電気代の値上がり、農業機械導入のハードル、後継者不足による労働力減少など、農業が抱える様々な課題によって、何代も続けてきた農業を辞める家や解散する集落農場が増えています。
「多くの物が値上がりする中、米だけが安いままで現場は苦しい。その現状を国の担当者にも把握してほしいと伝えています」
自社だけでなく農業全体の未来を見据える青木さん
「よく『若い後継者を育てればいい』と言われますが、気付いたときにはもう遅い。朝日町も例外ではなく、近くの集落農場が解散となりました。地域の農業委員を務めていることもあり『全部引き取ってほしい』と声がかかりましたが、地域全体に貢献したいので、うちと数人の生産者で分割しました」
青木さんは、スマート農業の積極的な導入によって、農業の未来を切り拓きたいと考えています。機械には投資を惜しまず、トラクターだけで10台、麦大豆用の大型コンバインを3台保有。そのほとんどがスマート農業に対応するものです。
「キャビンはガラス張りでエアコン付き。昔に比べれば贅沢ですし、過剰投資です。国も県も贅沢品を反対しますが、コンバインもトラクターも長時間乗るもの。こうやって後継者不足が課題になる中で担い手を得るためには、若い人に農業の魅力や面白さを感じてもらい、多少のお金をかけても安全で快適にできる方法を見出すことが大切だと思います。そう提案したら、国や県も認めてくれました」
今後の展望
サンライス青木では、“見える化による安心安全な米作り” を心がけ、2018年から “ASIAGAP(アジアギャップ:GAP認証制度)” に取り組んでいます。食品安全、環境保全、労働安全、人権福祉、農場運営の要素を含むアジア共通の認証制度です。
大型倉庫に保管されたフレコンバッグ入りの米
「圃場管理や残留農薬など、いろんなことに気配りして、これまでクレームゼロで進めてきました。小袋にも圃場ナンバーを記載・データを見える化し、『この米はどこの圃場で取れて何月何日に乾燥させたか』『どの乾燥機に入ったか』など、逆算すると全て分かるよう管理しています。これもスマート農業の価値ですね。
息子の奥さんが、検査やGAPの指導員など農業に必要な資格を取得しているため、とてもありがたいです。多くの人は資格など不要だと思うかもしれませんが、これからの農業は資格を身に付けなければ太刀打ちできません。特に米の価格が下落している現在、GAPはとても役に立ちます。お客様が生産者情報の見える化を求めているため、GAPに対応することで差別化できるんです。何をするにもお金はかかりますが、長い目で見て利益を出せればと考え、いち早く取り組んでいます」
サンライス青木では2023年度に向け、集落農場から受け持つ16haの増加を見込んでいます。そして、今後の基盤整備計画の中で、ラジコン草刈機が転がりにくいようにのり面を緩やかにする、トラクターやトラックが通れる畔道を付けるなど、モデル圃場としてやりたいことを提案しています。
「将来的に取り入れようとしているのが、衛星のデータです。装置を付ければ衛星で何でも見られるようになるかもしれません。5年以内にはすごく面白いことになると思いますよ。そこに私たち農業者が付いていけるかが大事でしょう。
誰かが先陣を切らねば、最先端のものは普及しません。それは自分の役割だと考えています」
常にアクティブに、攻めの姿勢でひた走る青木さんの姿は、農業に携わる人への刺激となるとともに、農業機械メーカーにとっても新しい農業の可能性を広げるヒントを与えてくれます。
愛猫の “ちょこたん” を抱いて優しい表情の青木さん
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取材協力:有限会社サンライス青木 様
ホームページ http://sunrice-aoki.com/
ECサイト https://sunriceaoki.official.ec/
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